商社の船舶 脱炭素加速

商社の船舶 脱炭素加速

総合商社を中心に海運業界の脱炭素を後押しする動きが広がっている。住友商事はこのほど、ノルウェーの船舶向けバッテリーシステム大手と共同で、エネルギー貯蔵システムの販売・保守を手掛ける新会社を設立した。豊田通商は軽油代替燃料のバイオディーゼル燃料を使って船を運航する実証実験を始めた。船舶の二酸化炭素(CO2)排出規制が強まる見通しのなか、脱炭素関連の需要を取り込もうと各社が競っている。

蓄電池と電力制御システムを組み合わせる

住商が立ち上げた新会社「Sumisho Corvus Energy」は、ノルウェーのコルバス・エナジーとそれぞれ50%ずつ出資する。コルバス社が製造する、蓄電池と電力制御システムを組み合わせて電力の貯蔵や放出を行うシステムを住商が日本市場で販売する。同システムはエンジンなどの動力機関に組み込めるため、完全電動も可能になるという。販売に加え、契約後の保守・技術支援も行う。

コルバス社はコンテナ船やクルーズ船、港湾機器など幅広い用途に対応するシステムを開発できる強みを持つ。住商が船舶トレード事業や保有船事業などで培ってきた顧客基盤を生かし、海運領域の脱炭素に向けた需要を取り込みたい考えだ。

アンモニア燃料にも注力

住商は3月に、デンマークのコンテナ船最大手のAPモラー・マースクや、ノルウェーの肥料大手のヤラ・インターナショナルなどと共同で船舶向けアンモニア燃料の供給網を構築すると発表した。アンモニアは燃焼時に二酸化炭素を排出せず、輸送しやすい利点がある。アンモニア燃料を船から船へ直接供給する方式で、シンガポールで事業化に向けた検討を進めている。

アンモニア燃料の実用化を巡っては、伊藤忠商事も力を入れている。3月に、船舶向けアンモニア燃料の供給網構築でグループ会社の伊藤忠エネクスや宇部興産などと協業すると発表した。国内に燃料用のアンモニアタンクなどを設置し、運搬用の小型船を使ってアンモニア燃料を供給する。

一方、廃食油や植物油由来のバイオ燃料を供給する取り組みを始めたのが豊田通商だ。子会社がシンガポール港湾局や南洋理工大学など産学官で連携し、4月からシンガポール港で用船する船舶燃料供給船に船舶用バイオ燃料を供給する実証実験を実施した。シンガポールで初めての取り組みで、日本企業が関わるのも初めてだ。

代替燃料に注目が集まる一方で、実用化には技術や経済性などの課題が多く、サプライチェーン全体で実現可能性を検証することが重要になる。三井物産はAPモラー・マースクなどが設立したゼロカーボン輸送を推進する研究機関「Maersk Mc-Kinney Moller Center for Zero Carbon Shipping」に参画した。APモラー・マースクのほか、独シーメンスや三菱重工など13社(4月時点)で構成し、サプライチェーン全体での連携を通じて、代替燃料や新たな船舶運航技術の研究開発・実用化を進める。

三井物産は米穀物大手カーギルやデンマークのタンカー海運大手マースクタンカースと19年に、海運でのCO2削減のための戦略的提携を締結した。同年には米AIファンドと新会社を設立し、安全性などを考慮しつつ燃費効率がいい航路を予測して提案するサービスも進めている。

米国の積極関与で企業間競争激化も

化石燃料を使って船舶を運航する海運業界では、温暖化ガスの排出削減が課題だ。海運業の温暖化ガス排出量は世界の総排出量の約2%を占める。ドイツ一国分の年間排出量に相当する。
国際海事機関(IMO)は、国際海運に従事する船舶の平均燃費を2030年までに40%改善、温暖化ガス総排出量を50年までに半減する野心的な方針に舵を切った。国際海運の脱炭素化に向けた船舶の二酸化炭素(CO2)排出規制は、気候変動対策に先鋭的な欧州の影響もあり、23年にも強まる見通しだ。
さらに、米国が国際海運の脱炭素化について存在を誇示してきた。4月に米国で開かれた気候サミットに先立つ特別会合で、ジョン・ケリー気候変動特使が、「ゼロエミッションを50年までに達成すべきだ」と発言し、物議を醸している。
これまで国際海運の脱炭素化に興味を示さなかった米国が、積極姿勢に転じたことで、海運業の温暖化ガス排出削減が一気に進む可能性が出てきた。
温暖化ガス排出削減技術のハードルは高い。だが海運業界が転換期を迎える中、国際的な動きに呼応して、ビジネスチャンスを取り込む企業間の競争が激しくなる様相を見せている。

出典:日経産業新聞