非効率 石炭火力発電 廃止

経済産業省が掲げる非効率石炭火力発電廃止の方針は電力会社だけが対象ではない。工場の電力供給のために自社で発電する自家発電設備も含まれる。削減を強いられる事業者には鉄鋼や化学、製紙、セメントなど様々なメーカーが含まれる。気候変動対策で最も効果のある石炭火力からの脱却は、脱炭素への取り組みの本気度を測るバロメーターになっている。投資家らの厳しい目が注がれる中、撤退の動きも出てきた。

2018年度の日本の総発電量の中で石炭火力の割合は32%だ。自社保有や近隣にある工場、施設に発電した電力を供給する自家発電は石炭火力の約1割を占める。

経産省は亜臨界圧(SUB-C)、超臨界圧(SC)の石炭火力を非効率として削減の対象にしている。自家発電用の非効率火力は日本に79基ある。しかも、76基が最も効率が悪い亜臨界圧だ。そのため、電力会社の発電所よりも自家発電を淘汰するのが先決だとする見方もある。各社は強まる石炭火力の包囲網に敏感に反応して、自家発電の休廃止を検討する。

旭化成は、2030年までに自家発電用の石炭火力をなくす方針だ。宮崎県の自社工場では、電気の約3割を自社の石炭火力発電でまかなっている。これを液化天然ガス(LNG)火力発電所を新設したり、水力発電所の発電量を上げるなどして代替する。最終的に石炭火力をゼロにする。

化学メーカー大手のトクヤマは8月に徳山製造所(山口県周南市)にある石炭火力の自家発電所を1基廃止すると発表した。同設備は1963年に稼働を開始し、2014年から老朽化などを理由に停止していた。政府の削減方針を受けて、最終的に廃止を決めた。

トクヤマが所有する自家発電所は5基から4基になる。残る発電設備の廃止は現時点で検討していないが、コージェネレーション(熱電併給)を強化。バイオマスの混焼比率も高めて高効率化を図っていくという。横田浩社長は「将来的には電子・情報関連やヘルスケアなどエネルギー消費が比較的少ない事業の比率を高める」と語る。

コージェネレーションは発電時に発生する蒸気を熱源として、冷暖房や給湯などに利用する方式。同じ量の石炭を使ってもエネルギー効率を上げることができる。

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業界団体も声を上げる

業界全体の影響を懸念して延命策を講じる業界もある。

9月18日、経産省の石炭火力検討ワーキンググループ(WG)に出席した日本製紙連合会の担当者は「石炭火力の休廃止はコスト増につながり国際競争力の低下を招く。事業者の収益だけでなく、国内の紙の安定供給にも大きな影響を与える」と話し、削減は困難だとの意見を述べた。

同会は廃棄物やバイオマスの混焼、熱電併給による効率の向上を30年に向けて加速させていく方針を示した。同会の関係者は「発電効率41%以上の超々臨界圧は製紙産業にとって過剰設備で投資回収に見合わない」と語る。現行の省エネルギー法の運用を駆使して、高効率化を図っていくのが現実的と言うわけだ。

セメント協会はWGで「自家発電はフェードアウトの対象外とすべきだ」と明確に反対を表明した。自家発電設備をなくせば外部電源に頼ることになり、停電が起こった際に高温ガスが噴出するなどして事故や設備故障のリスクが高まると主張する。仮にフェードアウトの対象に含まれた場合には「財政的なインセンティブや時間的猶予が必要だ」と要望した。

鉄鋼メーカーは環境負荷軽減の施策を高効率化と並行することで存続を訴える。日本製鉄は全国の製鉄所で石炭火力発電所を展開する。環境対応も念頭に、岩手県釜石市や大分市などの製鉄所にある石炭火力では、石炭を木質バイオマス燃料と混焼する事業を手掛け、発電所の高効率化に取り組んでいる。

併せて鉄鋼生産の副産物であるスラグを活用して気候変動対策を強化している。全国約40カ所で海藻類の発育を促進する取り組みを進める。スラグを海中に置くことで鉄イオンが海藻類の発育を促し、結果的に二酸化炭素(CO2)の吸収量が増えるという。

神戸市の2基合計で、原子力発電所1基分の高発電量の石炭火力を保有する神戸製鋼所は蒸気を活用した周辺への熱供給のほか、今後は下水汚泥由来のバイオマス燃料の活用も予定する。7月にはブラジル資源大手のヴァーレや三井物産とCO2の排出を抑えた製鉄技術を販売する計画を明らかにした。

石炭火力プラントを作るメーカーにとってもフェードアウト方針は事業の練り直しを迫られる可能性がある。三菱重工業の100%子会社で火力発電向けのガスタービンを手がける三菱パワーは石炭火力の新設の減少を見据えて、生産中心からサービスへのシフトを進める。

三菱パワーが製造する火力発電用のタービン。今後はガス火力向けの製品に注力する

原料調達を担う商社は静観の構えだが、新電力を立ち上げている丸紅は休廃止の影響をこう説明する。「燃料の長期契約のキャンセルによる損失の影響が出る可能性がある。そうなれば新電力の経営悪化は避けられなくなる」

社会にインパクトを与えた非効率石炭火力のフェードアウト方針だが、事業者の事情は様々で一筋縄には進みそうもない。ただ日本の環境団体がみずほフィナンシャルグループ(FG)に対して脱炭素の行動計画を示すように求める株主提案するなど、投資家からの圧力が今後強まる可能性は大きい。政府方針のいかんを問わず事業者には選択の時が訪れている。

出典:日経産業新聞(企業報道部 川口健史、川上梓、湯前宗太郎、岩野恵)