再生エネ普及、広域送電カギ 電源構成最適化への課題

荻野馨 東京大学客員連携研究員/佐々木大輔 東北大学助教

ポイント
○送電線利用は限界費用の低い電源優先で
○コストに基づく電力販売と市場調達重要
○太陽光以外の再生エネによる補完関係を

再生可能エネルギーの優位性が世界的に見直されている。比較的施工が早い、設備が軽い、運転の人手が少ない、燃料の供給と費用がほぼ要らないなどの利点があるからだ。こうした強みが自然災害や気候変動など新しいリスクへの抵抗力(レジリエンス)になる。

国際エネルギー機関(IEA)の予測では、再生エネはコロナ禍でも投資額が前年比マイナスとならない唯一の電源だ。この適応力を十分発揮させるには、電力市場の仕組みが大いに関わる。2020年4月に電力自由化で発送電分離が実施され、今後も市場改革・制度変更は続く。本稿では、政府が掲げる「30年の再生エネ主力電源化」の実現可能性について検討したい。

日本は依然火力発電が主体で、いびつな状態にある(図参照)。化石燃料の発電量は8割に迫り、脱炭素化とは程遠い。原発停止を機に、石炭と天然ガスによる火力発電と、太陽光を中心とした再生エネで電力補填を図った。再生エネの固定買い取り制度の効果も働いたが、価格の高さから国民負担も同時に膨らんだ。

電源構成比

今も再生エネの投資コストは高止まりしているが、競争的な入札制に移行する過程で価格は中長期的に低下していくはずだ。実際電力改革の先進地では再生エネは最も安い電源だ。一方、日本では太陽光発電の余剰電力を捨てている現状もある。再生エネの投資と売買を合理的かつ安定的に支える持続的な仕組みを設計する際に重要なのは、再生エネを電力システムにいかに統合するかという視点だ。

◇   ◇

第1に限界費用の低い電源から送電線を使えるようにする「インセンティブ(誘因)ルール」が必須だ。限界費用とは、発電量を1キロワット時追加するごとに発生する運転費用、つまり固定費以外の人件費や燃料費の変動費用を指す。再生エネは燃料費も輸入も節約し、限界費用が低い。単純な市場原理で費用の低い再生エネは最優先で送電される。

現在日本では、事前登録をした発電所から順次送電する「先着優先」の仕組みを採っている。大手電力会社の火力発電や未稼働の原発の送電利用枠がまず確保され、容量や需要を超えると再生エネの発電抑制が要請される。発電しても送電・売電できないのでは採算がとれない。再生エネの優先接続が投資を増やし、価格も下げることは欧米の電力市場で実証済みだ。経済産業省も7月にこのルールの詳細検討を発表した。

第2に広域送電網の実現が必要だ。前述の再生エネの優先利用は、電力会社の供給地域間での越境電力取引では導入済みだが、末端の送電線まではルールが及んでいない。また越境送電線の容量も十分ではない。こうした状況では九州地方に眠る太陽光や北海道・東北地方の風力が送電・販売される見込みが立たない。

各地の発電と送電会社が分社化した今、インセンティブルールが全国的に統一運用されれば、再生エネの台頭は疑う余地がない。ただし、再生エネの最適地である末端から地域間の連携送電線の増強のための投資、また送電線の老朽化に伴うリプレース(交換)の費用が必要になる。

そうした送電コストは発電や小売りの事業者を通じて、需給関係に応じた地域間の混雑料金や送電系統の賦課金として一律徴収できるが、適切で公平な料金制度が重要だ。送電投資は発電や小売りと違い競争原理が働きづらいので、電力広域的運営推進機関による送電網の利用・投資計画の監視・推進が不可欠だ。社会インフラコストへの投資や税制面でのインセンティブを設けることも一案だ。

第3に全国的な電力取引を可能にする電力卸売市場も重要だ。広域送電網をベースに、コストに応じた電力の融通を市場原理で支える場となる。03年に創設された市場では取引はいまだ限定的だ。地域独占の電力会社は自前で発電から送電・小売りまで担い、市場での外部調達は制限された。16年の電力小売り自由化後も、発電・送電一体の会社との相対取引が多く、コストより電力供給の信頼性を優先する傾向があった。

安い電源の優先接続と広域の電力売買をベースに、発送電分離された各社が競争的な電力取引と利潤を追求すれば、電力卸売市場の価値は高まる。市場原理に合わせて再生エネの調達・投資拡大に各社が動くからだ。基幹電源(ベースロード)の発想ではなく、コストに基づく電力販売と市場調達の仕組みは上流から下流まで全域に価値連鎖を生む。欧米のように、コストが高く環境負荷の大きい火力発電は自然淘汰される。

◇   ◇

最後にエネルギーの最適な組み合わせも不可欠だ。再生エネは天候により不安定とされるが、30年の電源全体の22~24%の目標値程度であればコントロール可能という見方もある。

前述の電力取引市場では発電の前日に精緻な需要予測に基づき電力を売買し、当日の過不足調整のための取引もある。ここではある程度の運転調整が効く火力発電が見込まれる。ただしバックアップ電源の長期的確保は今後も課題であり、予備電源への投資は採算性の観点から先細る可能性がある。そのため、発電能力に価値を認めて取引をする「容量市場」が7月に立ち上がったが、火力発電の温存につながるという見方もあり注意深い検証が必要だ。

むしろ太陽光以外の再生エネの推進が有効だ。再生エネ売買が有利な電力取引市場になれば、太陽光以外の再生エネによる補完関係も可能になる。早朝や日没後にも発電が見込める風力発電や、眠っている揚水発電の利用が促される。日本の揚水発電容量は世界最大クラスであり、非常に優れた蓄電池の機能を持つ。

揚水発電の電源には限界費用の低い原発も可能だ。原発再稼働は不透明だが、以前はその運転が容易に止められないため、夜間の余剰電力で効率的に揚水発電用のくみ上げをしていた。再生エネを支える揚水、新たな役割を担う一定の原発や火力発電という組み合わせをシミュレーションし直す価値は十分にある。

一連の対策実施の機は熟している。送電線の再生エネへの優先開放を起爆剤に再生エネの優位性が認められれば、コストの高い化石燃料の発電所は次第に再生エネに代替されるだろう。また効率が悪くレジリエンスの低い発電所は淘汰される。さらに電力取引と電力融通のネットワークが広がるほど、各地の天候の違いも再生エネ安定化の材料となる。異なる地域の様々なエネルギー電源を一括して管理するシステムで不足と不安定を補完する。

ポストコロナのデジタル化と人工知能(AI)化という時代の流れにも乗る。優先接続を機に、IT(情報技術)と既存システムが融合すれば再生エネ推進は十分可能だ。今改革しなければコロナ禍でむしろブレーキがかかる。ルール設計に時間をかける余裕はない。

出典:日本経済新聞