電力スポット 需要期でも安値

夏の需要期を迎えた卸電力のスポット価格が異例の安値に沈んでいる。7月の平均価格は昨年に比べ4割以上安い。景気後退による電力需要の減少に加え、火力燃料の値下がりや再生可能エネルギーの急速な普及が影響している。価格低迷を受けて電力先物市場の取引も停滞している。

日本卸電力取引所(JEPX)で毎日取引するスポット価格(24時間平均)は、7月1~26日取引分の平均が1キロワット時4.23円前後。2019年7月の月間平均に比べて45%ほど安い。東日本大震災の前で、原子力発電所が全国で動いていた10年7月と比べても安値が際立っている。

新型コロナウイルスの影響による景気後退で製造業などの大口需要が落ち込み、電力需給の緩んだ状態が続いている。特に「自動車関連産業が集積する中部地方などで需要の落ち込みが大きい」と新電力関係者は口をそろえる。

実際、電力広域的運営推進機関によると6月の中部管内の電力需要は前年同月より6%近く少なく、全国ベースの減少率(2.2%)を大きく上回る。この分、工場などに電力を販売する新電力のスポット調達が鈍っている。

通常、夏と冬は空調用の電力消費が増え、1年で価格が上がりやすい時期だ。気象庁も今夏は全国的に高めの気温を予想し、電力の高値を予想する声が多かった。だが、豪雨災害が襲った九州などで多くの工場が操業停止を迫られ、西日本を中心に経済活動が鈍化。記録的な暖冬に見舞われた昨冬と同様、需要期の不発ぶりが顕著だ。

日本の電源の7割を賄う火力発電のコストが低下している影響も大きい。燃料価格を左右する原油相場は年初に比べ3割以上安い。液化天然ガス(LNG)や石炭が軒並み十数年ぶりの安値を付け、輸入価格も下がり始めている。電力会社は値下げをしても採算が取りやすくなっている。

さらに電力コストを押し下げているのが太陽光発電など再生エネの拡大だ。固定価格買い取り制度(FIT)の認定を受けた太陽光発電施設が相次ぎ整備され、設備容量は5年で倍増。19年の太陽光の電源シェアは7.3%と水力(7.1%)を初めて抜いた。日本エネルギー経済研究所の二宮康司氏は「燃料費のかからない太陽光の供給増で電力価格の下げ圧力が増す」と話す。

卸電力がかつてない「買い手市場」となっていることで、東京商品取引所が昨年開設した電力先物市場は取引が停滞している。スポット価格の変動をヘッジ(回避)できる機能が期待されているが「あまりの安さで調達価格を固めようというニーズが乏しい」(先物会社)。

特に5月は緊急事態宣言下で商業施設などの休業が相次ぎ、電力需要が大幅に減少。太陽光の出力が1年で一番大きくなりやすい時期と重なり、スポット市場ではゼロ円に近い価格が出現した。「総合エネルギー市場」の命運を握る電力先物に、コロナ禍という試練が立ちはだかる。

出典:日本経済新聞 商品部 小野嘉伸